2021年9月10日、田村憲久厚生労働相は記者会見で、少子高齢化に伴い、国民年金(基礎年金)の水準が将来大幅に減る見込みであることから、低下幅を抑える制度改革を検討する方針を明らかにしました。

年金受給世代の人口が増加し、現役世代の稼ぎだけでは賄いきれなくなると言われていた課題に対して、新たな対策案を打ち出してきた形になります。


これは要するに、日本国民全員から少しずつ貰っている基礎年金だけではどう考えても足りなくなるので、会社員(一部パート・アルバイト含む)、公務員の皆さんがたくさん納めている厚生年金を基礎年金に割り当ててしまおう!というものです。
今回は年金制度についておさらいしつつ、制度改革が与える影響と、現役世代がやっておくべき3つの事項について解説していきます。
制度改革の背景
そもそも、なぜ厚生年金を基礎年金に割り当てるような意見が出ているのでしょうか。
それには年金制度の仕組みと、100年後の財源を確保するための「マクロ経済スライド」という制度が関わっています。
ここでは、問題点の背景について順番に見ていきます。
国民(基礎)年金と厚生年金の仕組み


日本の年金制度はよく階段に例えられます。
- 1階:日本に住所を持つすべての人に加入義務があり、かつ受給資格がある国民(基礎)年金
- 2階:会社員や公務員の人に加入、受給資格がある厚生年金
- 3階:拠出金を運用することで受給額が変動する確定拠出年金
- 4階:個人による資産運用を促すNISA(少額投資非課税制度)
問題の焦点となっている国民(基礎)年金と厚生年金ですが、対象者が異なっているほか、収めている金額も大きく異なっています。
国民(基礎)年金の1ヵ月の保険料は16,610円(令和3年度)で、全加入者が一律の保険料となっています。一方、厚生年金の保険料は標準報酬月額等によって決まるため、一人ひとり異なります。
標準報酬月額とは、被保険者が受け取る給与を一定の幅で区切り、設定される金額のことです。
具体的な厚生年金の納付額は下表のとおりです。


標準報酬が月額98,000円を超えると国民(基礎)年金よりも厚生年金の方が納付額が多くなります。
このため、国民(基礎)年金と厚生年金の財源に大きな差がついてしまっているのです。
「マクロ経済スライド」によって基礎年金の給付額は約28%減らされる
2004年の年金制度改革(いわゆる「百年安心プラン」)にて、年金制度は100年間持続可能とされました。
100年間年金制度を持続させるために考えられた制度が「マクロ経済スライド」です。
このマクロ経済スライドによって年金制度を100年間持続させようとすると、国民(基礎)年金だけでは足りないので厚生年金の財源を、という話になっています。
公的年金の財源は現役世代からの保険料収入、税による国庫負担、積立金(およびその運用収益)ですが、仮に現在の年金給付の水準を維持しようとすると全く財源が足りません。特に、積立金については年間給付額(約56兆円)の4倍相当を保有していますが、これを急速に取り崩すことになります。
そこで、少しずつ給付を抑制して、この年金の積立金が100年後も枯渇せずに、給付総額の1年分程度を残すように調整しよう、とするのが「マクロ経済スライド」という制度です。
引用:YAHOO!JAPANニュース「2024年、次期年金制度改正の議論スタート」
厚生労働省年金局によると、令和元年度における厚生年金の積立額は約149.3兆円、一方で国民年金の積立額は約8.5兆円です。
相対的に体力の無い国民年金に100年後の積立金を残すために、国民(基礎)年金はマクロ経済スライドを使って給付額を減らす期間を、厚生年金よりも非常に長い期間行う必要があるのです。
平成30年度 | 令和元年度 | |
---|---|---|
厚生年金積立金 | 112兆5,431億円 ( 157兆3,302億円) | 112兆8,931億円 ( 149兆3,896億円) |
国民年金積立金 | 7兆4,436億円 ( 9兆1,543億円) | 7兆6,142億円 ( 8兆5,232億円) |
合計 | 119兆9,867億円 ( 166兆4,845億円) | 120兆5,073億円 ( 157兆9,128億円) |
※()内は時価ベースの数値、合計値は端数整理のため一部不一致あり。
厚生労働省の『2019(令和元)年財政検証』におけるパターンⅢの結果を参照すると、厚生年金の報酬比例部分にかかるマクロ経済スライドは2025年度までで済むのに対して、基礎年金に対しては2047年度までかけ続ける必要があるとのこと。
賃金比でみた年金給付の実質額は、報酬比例部分の減額率が2.4%で済むのに対して、基礎年金は28.1%もの減額となります。



たとえば、現在は6.5万円の基礎年金が、2047年以降においては満額で約4.7万円程度になってしまいます、、、
これでは国民(基礎)年金受給者が困窮してしまうため、冒頭でも触れた厚生年金の財源を引っ張ってくる案を持って来た訳です。
しかし、これはやはり厚生年金を収めてきた人たちにとっては納得がいきません。
厚生年金は払うだけ損?
国民年金と厚生年金は、それぞれ対象者、納付額が異なることは冒頭でも触れたとおりです。
つまり、厚生年金を支払ってきている人たちからすれば、



なぜ自分たちよりも少ない金額を払っている国民年金納付者の方々の分まで肩代わりしなきゃならないんだ!?
というのが本音でしょう。(実際、某ニュースサイトのコメント欄はそんな意見で溢れています、、)
これは正直、私もそんな風に考えたくなる気持ちも分かります。
しかし、この基礎年金の減額の影響を受けるのは、当然ながら厚生年金、共済年金などの被用者年金受給者についても同じなのです。
報酬比例年金を受給する高齢者も、基礎年金を受給するという意味では同じことですから、基礎年金の減額に引きずられて自分たちが受給する年金の総額もまた、大きく目減りするということには変わりがないわけです。
したがって、他に収入源がなく老後を年金にだけ頼って生活する将来の高齢者にとってみれば、基礎年金の実質的減額に歯止めをかけることは意味のあることだと考えることができます。田村大臣が強調する改革の意義はここにあります。
引用:YAHOO!JAPANニュース「2024年、次期年金制度改正の議論スタート」
このため、一概に厚生年金を納付することが無駄とは言えません。
とはいえ、この辺の制度としての限界を政府は予想できなかったのか?という疑問は大きく、ますます現役世代の年金離れは加速していくかもしれません。
つまり、会社員の早期リタイア、経済的自立(FIRE)が大きな流れとなってくる可能性はありそうです。
経済的な自立が求められる時代へ
では、瓦解していく「百年安心プラン」 を横目に、我々は何をすべきでしょうか。
ここからは、老後を迎える前に現役世代がすべきこととして大きく3つの内容について説明しいていきます。
年金制度に頼らない資産形成を
自分で老後資産を形成する重要性が益々高まっています。
iDeCo、つみたてNISAといった政府の用意している免税制度を最大限活用し、個人による資産形成を始めてみてはいかがでしょうか。
まずはご自身の資産状況整理も兼ねて、資産シミュレーションをしてみることを強くおすすめいたします。
詳細は下記で説明しておりますので、ぜひ参照ください。




個人で稼ぐ力を
会社員、公務員を続けるにせよ辞めるにせよ、個人で稼ぐ力を磨くことはこの先必須であると考えています。
私以外にも多くの方々が同じような話をされていらっしゃいますが、これは私の本心です。
副業という形でも何でも構わないので、何かしら始めてみることをおすすめいたします。



私はシステムエンジニアとして会社に属しつつ、ブログ、WEBライターの副業を始めました。
ブログであればPCだけあれば即始められます。レンタルサーバの契約が必要ですが、月900~1200円程度の予算を見て頂ければ十分です。
具体的なブログの始め方、収益化の方法についてはまた別記事でご紹介いたします。
保険は保険、補償内容の見直しを
最近はとあるYouTubeチャンネルの影響か、任意保険を安易に解約しまくっている人たちがいらっしゃると思います。
とある書籍に「保険というのは、言わば『不幸が起きることに賭けたギャンブル』みたいなもの」という記述がありますが、保険はギャンブルではないと思っています。
確かに一部詐欺まがいの保険はありますが、これを真に受けて民間保険を安易に解約してしまうのは非常に危険です。
公的保険が充実しているのは事実ですが、現に年金制度が機能しなくなってきていることは念頭に置いたうえで、必要最低限の補償を整理し、任意保険でカバーしていきましょう。
ご自身で整理することが難しい場合は、プロに保険見直し
下記よりプロのファイナンシャルプランナーへの相談登録ができますので、必要に応じて活用ください。
\保険の無料相談/
住宅の火災保険については下記で詳しく解説していますので、よろしければ参照ください。


まとめ:政府の動向を注視しつつ、まずは老後資産の見直しを
年金制度の改革案について、既存の制度内容を振り返りつつ解説して参りました。
「マクロ経済スライド」という制度によって100年後の財源を確保しようとしていますが、国民年金は財源が乏しく、給付額が3割近く減額されることになってしまいます。
これを回避すべく、厚労省が打ち出したのは厚生年金の財源を国民(基礎)年金に割り当てるというものでした。
年金制度がこの先どうなっていくかは定かではありませんが、自身の老後資産は個人で形成しておくことが重要になってきていくと思われます。
このため、まずは資産シミュレーションを行うことで老後資産の見直しを行うことをおすすめいたします。
貴方の家計に対する不安が、少しでも軽減することを祈っております。
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